幸せすぎるのも不幸だね

ただただ愛を叫ぶ場所

これが、最後の夏だから



私が初めてこの曲のMVを見た時、大袈裟ではなく大泣きした。
はっきりと覚えている。高校3年生のある夜だった。毎日の受験勉強に疲れ果て、息抜きで見た音楽番組。そこでかわいい女の子たちが歌っていたあの曲。ワクワクするイントロ、耳に残るサビ、可愛い振り付け。気になって気になって仕方なかったので夜寝る前に検索した。その曲はすぐに見つかった。ふーん、最新シングルなんだ。寝る前にこれだけ見てみよう。ってほんと軽い気持ちだった。さっき真ん中で歌ってた子可愛かったな、出てくるかなみたいな、そんな気持ち。


再生ボタンを押す。最初に耳に入ってくるのはセミの声、風鈴の音。アイスを食べる女の子が居て、その後には部活帰りみたいな女の子たちが集団で出てくる。弓道部かな?なかなか渋いチョイス。こんな田んぼのど真ん中通って学校行ってるの??着てるのは制服??かわいいな、ワンピースの制服って可愛いよなぁ。あれ??プール入っちゃうの??深夜に無断侵入??あ、みんな来てるんだ。約束したのかな??

ここまではまだ良かった。確かに引き込まれてたけど、まだ後戻りは出来た。でも次に出てきたのはこのプールだった。

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一瞬にしてグッとこれまで以上に引き込まれた。いいなぁ、秘密基地みたい。みんなで集まれる場所があるのか、いいなぁって。純粋に綺麗だと思ったし、羨ましかった。しかもそのプールに浮き輪で浮かんでる子がいる。その子をフィルムカメラで撮ってる子もいる。端の方には、熱心にプール改造計画表を作ってる子もいる。さっき来たばかりのあの2人は、足をブラブラさせながら花火で星を描いている。

完璧だった。ベタすぎる理想の青春がそこにあった。物語の始まり方があまりにも美しすぎて、MVである事をしばらく忘れていた。


プールに落ちていた野球ボールを誰かが拾う。するとその誰かの手に当たって、この曲を歌うアイドルグループのロゴがくるくる回転する。あぁ、そうだ。私は今この子達のMVを見てたんだと思い出す。そこでようやくイントロがかかる。

とってもワクワクするイントロだった。疾走感が溢れ出ている。例えるなら、授業が終わった瞬間廊下に飛び出る女子高生という感じ。そう考えるとなんとなくイントロの始めは学校のチャイムに聞こえなくもない。私はこの何かが爆発するかのような、そんな気持ちになるイントロが大好きだ。そのイントロに合わせて、色んな女の子の笑顔が立て続けに映し出される。

圧倒された。

プールで理想の青春を体現させている彼女達は、受験勉強でボロボロになっている私にとってあまりに眩しく、思わず目をつぶりたくなる程キラキラしていた。






このMVで軸になってるのは弓道部の2人の話と、男の子がきっかけで喧嘩してしまう2人の話だった。

まずは弓道部の2人の物語から始まる。2人は放課後のプールにも一緒に行っていたし、そこで一緒に花火もしていた。1人がもう1人の方に髪留めをプレゼントしていたし、なかなか登るのが難しそうな木の上で、ひこうき雲がはっきりと見える青空のもと2人並んでアイスを食べていたりもした(片手にアイスを持ちながらどうやって登ったのか疑問しか残らないがそこは置いとく)。なんて綺麗な青春。2人は親友なんだろうな、でも髪留めをもらった方の彼女は、少し弓道が苦手なのかな?と思った。


一方、2つめの物語もここで始まる。さっきプールでフィルムカメラを回していた女の子が、今度は隣でアイスを食べる親友の女の子を撮影している。そこにやってくるのが、坊主頭の男の子だ。その男の子がきた瞬間、フィルムカメラの女の子は隣の女の子を撮影するのをやめる。その代わりに、じっと男の子を見つめる。そしてあっという間に居なくなってしまう男の子の姿を目に焼き付けるように、後ろ姿を目で追う。それと同時にフィルムカメラでも後ろ姿を撮影する。あぁ、あの子に恋をしているのかと一瞬で分かる。そうか、君は親友の幼なじみが好きなんだねと分かってしまう。(幼なじみというのは私の脳内で勝手に創作されたので詳しくは分からないが、仲はかなり良さそう)


と、ここでまた弓道部に話は戻る。今度は髪留めを渡した方の子が弓を引いていた。一目瞭然だった。この子は才能があるんだなと嫌でもすぐに理解できた。高得点に駆け寄る部員達。無邪気に笑う女の子。それを遠くから見る親友。残酷だと思った。2人が築き上げてきたあの時間は、あの空間は、これで崩れてしまうのか。これまで対等だった彼女達の関係は『できる方』と『できない方』で分けられてしまうのか。不安で不安で仕方がなかった。


サビに入る。サビではかわいいグラデーションのワンピース(これはワンピースが水に濡れて偶然できたグラデーションらしい)に身を包んだたくさんの女の子たちが、元気いっぱいに歌って踊っていた。ちょいちょい挟まれる、この理屈抜きに楽しそうな彼女たちを見ると、なんだかとても救われる。しかしおぉ、か、かわいいと思うのもつかの間。案外早く物語パートが始まる。


友達との下校途中。掲示板に学校のプールが解体・撤去されるというお知らせを見つけ、友達は驚く。しかし、彼女が気になったのはそのプールのお知らせの下に貼ってあった、親友の弓道選抜大会出場決定!!という記事の方であった。弓道選抜大会って名前のセンスなさすぎやろ、全国大会とかもっと分かりやすい名前の方がいいんじゃないの、とも思ったが、まぁ気にしない。彼女が複雑な顔をしていたのできっと凄い大会なのだろう。それ以降、彼女は親友との距離が分からなくなる。話しかけられても曖昧にしか返せないし、優しくされてもその優しさを受け取ることが出来ない。親友が嫌いな訳ではない。でも、1番近い存在だからこそ嫉妬してしまう。嫉妬している時に優しくされるから、余計に素直になれない。その気持ちが痛いほど分かった。悔しさが痛いほど分かった。


そんな苦しい気持ちのまま、物語は再びもう1つの方に移動する。フィルムカメラで撮影するのが好きな女の子は放課後も無邪気に1人で撮影をしていた。教室で寝てる子、プールの解体・撤去に反対する署名運動を行っている子。その時だ。きっと偶然だった。きっと夕焼けと川のコントラストが綺麗でそこで立ち止まったのだろう。そこではしゃぐ女の子が絵になると思ってカメラを向けたのだろう。だから偶然見てしまったのだ。自分の好きな人が親友と一緒にいる所を。彼女は呆然とする。そして次の日親友に抗議をする。きっと親友だからこそ許せなかったのだろう。私の想いは知っていたはずだ、それなのにどうして、と。親友も反論していた。でも彼女は聞こうとしなかった。明らかに怒ってますという雰囲気を出したまま、ぷいっと帰ってしまった。その背中を見送る親友はとても悲しげな顔をしていた。さっきまであんなに仲良さげに駄菓子屋の前にいたのにどうしてこうなってしまうんだろう、どうして女の子の友情ってこんなに難しいんだろうととても悲しくなった。


ここでもう1つ、小さな物語が動き出す。一番最初に出てきていた、プールの端っこでプール改造計画表を作っていた彼女と、その計画表をみせて貰っていた友達 (この2人には特に大きなエピソードは無いため、ここではあえて親友ではなく友達という表記にしておく)。プール改造計画表を作っていた彼女は、先程フィルムカメラ好きの女の子が撮った映像に、反対の署名運動をしている様子が映し出されていた。放送室で友達とテレビを付けると、解体を指示した市長がプールの視察に来るという。それを見た彼女はみんなから集めた反対の署名を急いでカバンに入れ、プールに向かって走り出す。プールへ向かう彼女を見て、私も何かできないのか考えたのだろう。友達は放送を使い、全校生徒に友達とプールのピンチを呼び掛ける。


それを聞いた女の子たちは一斉に走り出す。1人で居た子も、友達と帰ろうとしていた子も、最初のプールのシーンで、一緒に浮き輪で遊んでいた2人も真剣な眼差しで走り出す。描かれてはいないけど、きっとこの2人や他の女の子たちにも何か物語があったのだろう。

プールは守らなくてはいけない、絶対に。全然関係ない私まで走り出しそうになった。こうしちゃいられない、はやく、はやくあの場所へ。急がなくちゃ、みんなの場所が無くなってしまう。あの場所が無くなってしまったら、あそこで起こった全てのことが無かったことになってしまう。全て無かったことになってしまったら、きっと元の関係には戻れない。間に合ってほしい、どうか手遅れにだけはならないでほしいと強く思った。






弓道部の彼女とフィルムカメラの彼女が背中を合わせてプールサイドに居た。弓道部の彼女の横に親友の姿は無かったが、親友からもらった髪留めを握り締めながら微笑んでいた。フィルムカメラの彼女も横に親友の姿は無かったが、自分の好きな人と親友が映っているカメラを持って笑っていた。少し安心した。

そんな時に市長が来た。慌てた彼女は親友からもらった髪留めをプールに落としてしまう。多分、この時彼女はまだ気付いていない。そのまま物陰に隠れる。するとやがて市長が現れ、その後に反対の署名を集めていた彼女が市長を追ってやってくる。

映さなくてはいけない、と弓道部の彼女はきっと思ったのだ。友達が真っ直ぐ、大人と戦っているのを目にした時、これは映しておかなければならないと思った。だからフィルムカメラの彼女からカメラを借り、友達が戦っている姿を映した。友達は必死だった。ここを守ろうと、1人で必死に戦っていた。署名をプールに投げ捨てられたって諦めなかった。必死に署名をプールの中から拾い上げた。その瞬間、弓道部の彼女は気付く。大事な物は守らなければいけない、自分が守りたいものは自分で守っていかなければいけない。じゃあ、友達が必死でその大切なものを守ってる姿を黙って見ていていいのかと。


このままでいい訳がない。


彼女は、今までの様子は全部記録したと大人達に言う。突然出てきた彼女に大人達は驚き、映像を奪い取ろうとする。しかしそこで友達が大勢出てきて、デッキブラシなどを使って大人達をプールに落とす。なかなか荒々しい方法だが、若いからいいのだ。おじさんと女の子たちがプールの中でシッチャカメッチャカに戦う。文字通り本当に戦うのだ。その様子を弓道部の彼女は撮り続ける。真実を記録しようと、カメラを回し続ける。

1番びっくりしていたのは、反対の署名運動を行っていた彼女である。突然出てきた大勢の仲間に、ポカーンとしている。きっと彼女は1人で戦っていると思っていたのだろう。そんな事は無い。少し振り返ってみれば、味方はたくさんいる。何でも1人で背負い込みすぎるのは良くない。団結した女の子は強い。


カメラを回し続ける弓道部の彼女に、市長が襲いかかる。どうにかしてカメラを水没させようと力づくで奪いにくる。まずい、このままだとダメだ。誰か。と私は思った。きっと彼女も思った。その時だ。彼女の親友が真っ先に駆けつけてきたのだ。市長に後ろから飛びかかり、そのまま後ろに引っ張って自分と一緒にプールに沈んでいった。冷静に考えると、カメラを持った彼女をプールに落とそうとしている市長を引っ張ってしまったら、彼女までプールに落ちる可能性は大なので作戦としては間違っているかもしれないが、うまくいったからいいのだ。自分が親友に対し勝手に嫉妬し、勝手に距離を置いている時であったのに、その親友が真っ先に助けに来てくれたことに彼女は驚く。
そうこうしている間にもプールの中での戦いは続く。トドメをさしたのは放水ホースだった。かなり勢いのあるホースを、大人達に向けて思いっきり放水していた。まぁきっとあれは味方もかなりのダメージを受けたと思うが、そのホースを持っていたのは、男の子が原因で喧嘩していたあの2人だった。



何日後かは分からないが、テレビではすでにあの時の映像が出ていた。女の子が健気に集めた署名をプールに投げ捨てるというショッキングな映像を見て、市長の信用がどうなったとかその辺は知るよしもない。大体想像はできるけど。そんな風に世間は賑やかだけど、女の子たちにとっては至って普通の日常が戻っていた。駄菓子屋の前ではこれまで通りあの2人が一緒にアイスを食べていた。2人の周りには、女の子の友達がたくさんいた。


弓道部の彼女は、まだ少し気まずそうだった。でも、やっぱり親友はすぐに近づいてきてくれる。何も言わずに、浮かない顔をしている彼女の顔を見ながら微笑んでいた。

全部、許すよ。だから隣に居てよ。

私にはそんな微笑みに見えた。『はい、落ちてたから拾ったよ』と言った親友の言葉は仲直りの合図だった。親友は満面の笑みで彼女に髪飾りを渡すと、彼女もまた満面の笑みでそれを受け取った。





ここまで見て私は大号泣である。受験で弱っていたというのもあるかもしれないが、ばかみたいに泣いた。良かったね、良かった。プール無くならなくて良かったし、仲直りできて良かったねと夜中にべーべー泣いてた記憶がある。それからというもの、私は毎日必ず寝る前にこのMVを見る事にし、その日の悲しみを全部涙にのせて流すという作業を行っていた。

女の子が輝いているのを見て胸がときめいた。親友との才能の差に苦しむ姿に共感した。恋のことになると急にシビアになる女の子の関係性にドキドキした。助け合いながら強くなる女の子たちを見て勇気をもらった。


周りが変わったって、女の子たちの生き方は変わらない。きっとなにがあったって、どんな状況になったって、女の子が数人集まれば嫉妬は生まれるし、恋の話も始まる。でもきっと嫌いな男の子の話になったら団結して強くなる。そんなものだ。例え食パンに耳がない世界になっても、海がしょっぱくない世界になっても、太陽が2つある世界になっても、女の子は集まって恋の話をする。多分これだけは絶対変わらない。そういうのがなんかこう、うまく表現されてて、すっごく泣けるんだけど最後にはちゃんと笑える。明日からもちゃんと女の子として生きよう、女の子を生きようと思える。



このMVは本当に素晴らしいものだと思う。もちろん、楽曲もよければ歌衣装も素晴らしい。文句のつけ所がない、完璧すぎるものとなった。あの日、この曲に出会わなければこのアイドルにはまることもなかった。あのタイミングで出会ったからこそ、今の私があると思う。

今でも私は涙無しにこのMVを見る事はできない。というかむしろ、今ではイントロから涙目だ。このブログを書く為に、改めて少しずつ見返しながら書いていたのだが、何枚ティッシュを消費しただろう。正直、私の涙腺は異様な程ゆるゆるである。千と千尋の神隠しは泣きすぎて2回リタイアしてるし(3回目にしてようやく最後まで見れた)、映画館に行けば本編が始まる前の予告でほぼ必ず泣く。最近でいえば、某携帯電話会社の三太郎シリーズのCMで、金太郎が他の2人に何も言わず1人で鬼退治に行こうとするあのCMで泣いた(さすがに母親にひかれた)。だから私が泣いた、と言っても信用度は低いかもしれないが、本当にこのMVは感動する。


弓道部のあの2人は、男の子の事で喧嘩した2人とは違い、喧嘩らしい喧嘩はしていない。周りも気付いてないけど、本人達はなんか気まづいみたいな事が女の子にはよくある。この曲の歌詞から見て、フィルムカメラの彼女とその親友の話が主軸になってもおかしくはないように思えたが、今回のこのMVは弓道部の2人の話が主軸になっていてとても良かった。


だって恋の話は大好きだけど恋だけが女の子じゃない。ちゃんと違うところで悩んでるし、ちゃんと考えてる。



嫌なところまで見せあって、初めて楽な関係になれる。
そんなガールズルールが私は大好きだ。


乃木坂46 『ガールズルール』




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